神戸家庭裁判所尼崎支部 平成3年(家)1195号・平3年(家)1376号・平3年(家)1377号・平3年(家)1378号・平3年(家)1384号
主文
被相続人甲野花子の相続財産である別紙財産目録記載の預金から金2000万円を申立人学校法人○○学園に分与する。
申立人乙山春子、同乙山夏子、同乙山太郎及び同乙山秋子の本件申立をいずれも却下する。
理由
第一各申立ての要旨
一 被相続人は平成元年11月14日死亡して相続が開始したが、被相続人には法定の相続人が見当らなかったので、相続財産管理人が選任され、その請求により相続人捜索の公告がなされたが、期間内にその権利を主張する者はいない。
二 申立人学校法人○○学園の特別縁故関係
(一) 申立人学校法人○○学園(以下申立人学園という。)の前身は、被相続人の父甲野一郎(以下一郎という。)によって××××年×月に設立された財団法人○○中学校である。財団法人○○中学校は、後に財団法人○○学園と改称され、さらに昭和××年×月、学校法人へと組織変更がなされ、中等普通教育及び高等普通教育を行うことを目的として、○○高等学校および○○中学校を設置し、現在に至っている。
(二) 一郎は自らも教育に情熱をもやしていた上、その父で元○○○の○○であった甲野二郎の遺志を継ぐ意味もあって、××××年×月、私財を投じて旧○○郡○○町字○○××××番地(現申立人肩書住所地)に財団法人○○中学校を設立し、直ちに理事長に就任、以後昭和××年×月××日死亡するまで、その地位にあった。
(三) 一郎は財団法人○○中学校設立後も、申立人学園の経費として××××年度までで総額約72万円を寄付した他、1万冊を越える蔵書を寄付するなど、申立人学園の育成、運営に大いに努力した。
(四) 一方、申立人学園の側でも一郎を校祖として思慕敬愛すること厚く、現在も一郎が示した建学の精神を校訓として生徒の教育に努め、また一郎や甲野家の墓の維持管理に努めている。
(五) そして、被相続人は一郎の唯一の子であり、昭和××年×月××日一郎が死亡するや、直ちに申立人学園の理事長に就任し、以後昭和××年×月、老齢の故をもって辞任するまで30年以上の長きにわたってその地位にあった。さらにその間、昭和××年の学園設立××周年の記念行事の際には金500万円を寄付し、申立人学園の理事を退いた後の昭和××年の同××周年の記念行事の際にも匿名で金500万円を寄付したものである。
三 申立人乙山春子、同乙山夏子、同乙山太郎及び同乙山秋子の特別縁故関係
(一) 申立人乙山夏子と同乙山太郎は夫婦であり、同乙山春子と同乙山秋子とは同夫婦の子である。
(二) 被相続人は家事使用人を雇うことを嫌い、その母冬子が死亡した頃から単身で暮していたが、同人が独居することは危険であったし、また既に老境に近づいての一人暮しは、著しく不便であった関係もあり、同人は、昭和50年4月頃から同申立人ら方に同居し、同申立人らの家族の一員として暮していた。そして被相続人が同申立人ら家族と親密になった原因は、同人と申立人夏子が小学校時代に同居して同一の小学校に仲良く通学し、又女学校時代には、申立人夏子が一郎の母と同居し、同女に孝養を尽くしたこと、更に同申立人や申立人秋子が常に老人に対して優しく親切にしていることを知っていたためと思われる。被相続人は、雑品を貯めるのが趣味であったため、荷物が多くなり、同申立人ら方の住居が手狭になった関係もあり、昭和53年初め頃、阪急電車○○駅前の高級マンションに移転した。しかし、被相続人は、引き続き同申立人ら家族に面倒を見てもらうため、電話も引かず、冷蔵庫も買わないという生活をし、そのため同申立人らは、毎日、被相続人のマンシヨンを訪れ、身の回りの世話や雑事を処理し、同人が不自由なく暮せるように尽力した。被相続人は、晩年病気になり、入院治療を受けたが、その入院中、病床に付き添い、「下」の世話をするなど、看護に従事したのは主として申立人春子である。被相続人は同申立人ら家族に対し殊のほか好意を抱き、かねてから家族全員が平和に生活出来るように、善処してあげる旨を述べていた。
(三) そのため被相続人は申立人秋子及び同春子に対し、西宮市○○○町××番×宅地×××.××平方メートルを持分2分の1宛死因贈与した。しかし申立人秋子と同春子は同土地の持分2分の1を取得しても、その相続税を納付すべき資産がない。従って相続税を納付できず、これによって同土地を失うようなことになれば、老齢で無資産の父母が困窮することは必至であり、かかる結果が被相続人の本意に背くものであることは言うまでもない。よって、申立人秋子と同春子は上記受贈土地の相続税を納付することができるよう、さらに相当額の遺産の分与を願うものである。
(四) 申立人夏子及び同太郎は老境にあり、収入もないので、余生をすごす資金として相当額の遺産の分与を希望する。
第二一 申立人学園の上記主張事実は、いずれも一件記録及び当庁家庭裁判所調査官○○○○の調査によってこれを認めることができる。さらにこれらによれば、被相続人は世襲的に申立人学園の理事長に就任したが、個人的には必ずしもその職務に尽瘁したものではなく、同人の理事長の職務は現在の理事長丙川勉が事実上代行していたこと、申立人学園は今年、創立××周年を迎えるに至るので、一郎と被相続人の記念事業を営むことを予定していることが認められる。
二 被相続人と申立人学園との上記諸関係は、これをもって申立人学園が被相続人の、民法958条の3第1項のいわゆる特別縁故者に該当しないとすることはできないものである。よって上記諸事情を考慮し、別紙遺産目録記載の遺産中、現金2000万円を同申立人に分与するのが相当と解する。
第三申立人乙山春子、同乙山夏子、同乙山太郎の本件各請求は、いずれも平成3年8月××日、同乙山秋子の本件請求は同月××目、当庁において受理された各申立によってなされたものである。
一件記録によると被相続人にかかる前記相続人捜索の公告において相続人が権利を主張すべき期間は、平成×年×月×日付官報公告で催告期間満了日を平成3年4月×日と定められていたので、同申立人らの本件請求は、いずれも、民法958条の3第2項の期間経過後になされたことが明らかである。
同申立人らは上記期間経過後の請求であっても、相続財産管理人の清算業務が終了しておらず、その業務の執行をさらに遅延させるおそれがない場合には、同法条項の期間経過後になされた請求を不適法として却下するためには、さらに別に合理的な事由を要すると解すべきであるのに、本件においてはかかる事由は存しない旨主張するけれども、財産分与の請求は申立人がこれによってただ相続財産から利益を取得するのみであって、相続放棄のように場合によっては被相続人の債務をも承継する危険のあるものとは異なるので、同申立人らの上記見解に従うことはできない。もっとも、相続人が存在するか否かという、相続財産の清算手続の前提要件が未確定であって、これに関する争訟が係属していた場合に、その間に民法958条の3第2項の期間が経過したときは、異別の取扱いを考慮すべきものと解するが、本件においてはかかる前提要件で未確定であったものはなにもない(申立人乙山秋子及び同乙山春子が相続財産管理人を相手方として、神戸地方裁判所尼崎支部に対し提起した所有権移転登記手続請求事件(同庁平成2年(ワ)第×××号事件)は、被相続人の前記死因贈与の効力に関する紛争であって、相続人の存否にかかわるものではない)。
それ故同申立人らの本件申立は、いずれも民法958条の3第2項の期間経過後になされたものであって、不適法な申立であるから、これを却下すべきである。
第四よって申立人学校法人○○学園に対しては別紙目録記載の相続財産中預金から金2000万円を分与することとし、その余の申立人らの申立はいずれも却下することとして、主文のとおり審判する。